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<学問>非常勤講師の憂鬱

実は、僕は本業のほかに、大学で非常勤講師などをやっている。そんなわけで、今日は夏休み明けの講義の1回目をやってきた。正直、今回の講義をやるのは非常に憂鬱だった。というのも、今日の講義のテーマについて、僕はつい数週間前まで、殆どなにも知らない状態だったからである。

僕が学部生のころ、大学の先生というのは自分の専門科目だけを教えているのだと考えていた。当然、講義をするテーマについては豊富な知識を有しており、学生ごときの知識では到底及ばないものと信じていた。

しかし、大学院の博士課程に入ったあたりから、どうもそういうわけでもなさそうだと思うようになった。僕の同期でも、早い奴は博士課程1年生ぐらいから非常勤講師になっていた。けれども、何を教えているのかと聞くと、そいつの専門とは全くもって関係のない分野なのであった。

そして、博士課程を終えるころから、僕も非常勤講師をやるようになったのだが、依頼される講義というのが、どうにも僕の専門とは大きく食い違っている。もちろん、研究のテーマというのは概して非常にマニアックなものであり、それとぴったり合致する講義など滅多にないというのはわかる。だが、それにしてもちょっと違いすぎやしませんかね、という筋の講義依頼ばかりが来るのである。

「そんなに違うのなら、断ればいいじゃないか」と思う人も多かろう。けれども、大学院出身者にとって非常勤講師の口というのは、極めて重要な資源なのである。特に最近は、教歴がないと非常勤講師すらやらせないという学校が増えているため、教歴をつけるためにもとにかくどこかに講師の口を見つけることが最優先課題となる。だから、非常勤講師の依頼にしても、

依頼主「○○大学で××っていう講義をやってくれない?」
大学院生「ぜ、ぜひやらせてください!」
依頼主「引き受けてくれて助かったよ。いや~、前任者が急に断りを入れてきたもんだからさ~」
大学院生「なるほど・・・。で、××って、具体的には何を教えるんですか?」

といった具合に、とにかく引き受けることが先決で、何を教えるのかは二の次、三の次である。もちろん、教えられる側にすればたまったものではないだろうが、それでも背に腹はかえられないのである。

というわけで、今日の講義に話を戻すと、そもそもこの科目のテーマ設定自体にあまり馴染みがないことに加えて、今日は僕が以前には全く知らなかったことについて果てしなく語らねばならない。無論、準備はしているものの、本業のほうが忙しくなる一方であり、自分自身の研究論文の準備もしなくてはならないために、思うように時間が取れない。それでもなんとか講義用のレジュメを仕上げて、さも専門家であるような口ぶりで一席ぶってきた。これから後期の授業が終わるまで、このような自転車操業が続くことを思うと、気が重くて仕方がない。

ただ、最後に言い訳っぽくなるが、こういう自転車操業的講義が、自らの専門テーマにぴったりと合致した講義よりも劣悪なものになるとは必ずしも言えないように思う。もちろん、ミスが増えることは不可避ではあるのだが、講義の内容は教える側にとっても新鮮な事柄である。だから、それだけ講義は熱を帯びるし、声に張りがでる・・・こともある。

それにしても、来週の講義はいったいどうなることやら。

  by seutaro | 2005-09-14 23:48 | 学問

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