<政治・社会>最悪の敵は、時に最大の味方となる

 一般に、国際関係というものは良好なほうが望ましいと考えられている。実際、国と国との仲が悪いと、様々な問題が発生し、最悪の場合には戦争ということになる。

 けれども、みんながみんな良好な国際関係を望んでいるかと言えば、必ずしもそうとはいえない。国際関係の悪化を喜ぶ人もまた存在するのだ。

 「国際関係」とはちょっと話がずれるが、イスラエル建国の最大の貢献者は、アドルフ・ヒトラーだという話がある。

 かつて、世界中に分散しているユダヤ人を集結させ、独立国家を建設しようとする思想・運動であるシオニズムは、ユダヤ人の間でもそれほど人気があるわけではなかった。多くのユダヤ人は居住先の国家で確固たる生活の基盤を築いていたし、「いまさら独立国家なんて…」という考えを多くの人びとが持つのは何ら不思議なことではなかった。

 ところが、ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺は、「いくら社会に同化していたとしても、いつ攻撃の矛先がユダヤ人に向くかわからない」という「教訓」をユダヤ人に与えた。そこで、シオニズムに対する支持が高まり、イスラエル建国に繋がった・・・というのである。

 事実、シオニズム運動の創始者の一人であるテオドール・ヘルツルは、「反ユダヤ主義者は我々の最も確かな友人であり、反ユダヤ主義の諸国は我々にとっての友好国だ」と書簡に記したという。(小坂井敏晶『民族という虚構』、p.14)要するに、ユダヤ人に優しい社会が多ければ、それだけシオニズム運動が難しくなってしまう、ということである。

 ということで、話は飛んで、現代日本。靖国問題を契機とした日中関係の悪化がいろいろなところで論じられているわけだが、実は中国にも首相の靖国参拝を望む勢力がいるという話を読んだ(『SIGHT』2006年夏号)。なんでも、中国では現在、三つの主要勢力(人民解放軍、共産党A(守旧派)、共産党B(経済開放路線派))の間で主導権争いが行われているのだそうな。(共産党A、共産党Bという名称はテキトーにつけました)

 そして、人民解放軍と共産党Aは、ともに小泉首相の靖国参拝を歓迎していた…のだそうである。というのも、いずれにしても「軍国主義を反省していない日本」というイメージが中国社会に拡大すればするほど、自らの権益を拡大する余地が増えるからである。人民解放軍なら、「日本の脅威」とやらに対抗するために軍備拡張をより一層主張しやすくなるだろうし、共産党Aなら国家体制維持のためのイデオロギー操作に「反日」を利用しやすくなる。

 それに対し、靖国参拝で困るのが共産党Bの連中なのだそうな。共産党Bは、共産党の主導権を保ちながらも経済開放および緩やかな民主化こそが中国の国益になると考え、良好な国際関係のもとで経済発展を遂げていきたいと考えている。従って、人民解放軍や共産党Aが主導権を握る事態は避けたいというわけだ。
 
 江沢民はかつて共産党Bの出身だったそうであるが、自らの地位保全のためには人民解放軍や共産党Aのほうに歩み寄らざるをえなかった。そして、現在の胡錦濤もまた共産党Bの出身であるが、江沢民と同じような方向に流れ着きつつあるのだという。

 無論、外交関係においては、そうした国内の対立を他国に見せることは絶対にしないので、中国政府は一枚岩に見える。が、「靖国に行くな」という主張を掲げながら、その背後には「頼むからホントに行ってくれるな」と必死にお願いしている人たちと、「靖国に行ってくれてどうも有難う」とニヤニヤしている人たちがいるというのは、なかなかに興味深い。

 もちろん、こうした裏事情は、中国側だけに存在しているわけでもないのだろう。中国が靖国反対を声高に叫び、日本に敵対的な姿勢を示すほど、それを嬉々として自らの主義主張の裏づけに使う日本の論客たちもいる。内田樹氏の用語法を使えば、「ナショナリスト」ならぬ「ショーヴィニスト」ということになるだろう。要するに、隣国が愚かで野蛮な行動をすればするほど、内心では喜んでしまう人たちのことだ。

 さてさて、我々は隣人として、人民解放軍、共産党A、共産党Bのどれが主導権を握る国家が望ましい(もしくは、まだまし)だと考えるのだろうか。
[PR]

  by seutaro | 2006-09-13 14:49 | 政治・社会

<< <日常>子どもを持つ意味 <日常>若人との会話 >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE