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<メディア>ブラジルのデジタル地上波

 さて、ワールドカップは散々な結果に終わり、とりわけブラジル相手には全く歯が立たなかったわけだが、デジタル家電の分野ではブラジルに日本勢が攻め込むことができそうだ。

政府は29日、地上波のデジタルテレビ放送で日本方式を採用する方針を決めたブラジル政府に対し、プラズマテレビや液晶テレビ、半導体などを生産している日本企業の誘致で協力する方針を固めた。

 政府は、ブラジルが日本方式を採用したことで日本企業への経済効果は約1兆円に上るとみている。日本とブラジルの両国政府は同日、覚書に調印する見通しだ。

 地上デジタル放送の方式は、日本方式と米国方式、欧州方式があり、ブラジルは日本と欧州方式の間で選定を進めていたが、より多くのデータを送信でき、携帯電話でもテレビ放送を見ることができる日本方式の採用を決めた。ただ、海外で日本方式を採用するのはブラジルが初めてで、米国方式と欧州方式に比べて採用数で劣勢に立たされている。

 ブラジルが日本方式を採用したことで、今後、中南米諸国で日本方式を採用する動きが広がることを日本政府は期待している。両国政府は、覚書を結び、共同作業部会を設置して、地上デジタル放送開始に向けた具体的な計画を協議する。

 日本政府は、日本の電機メーカーや半導体メーカーがブラジルに進出して薄型テレビや半導体を製造する工場を建設するよう働きかける。技術者の育成などでも協力する方針だ。(『読売新聞』2006年6月29日)

 しかしまあ、この件に関しては「ようやく決定したか」というのが印象である。実は、ブラジルでは当初、独自の地上デジタル放送規格(SBTVD)の開発が予定されていた。

 ところが、資金不足からこの計画は頓挫し、外国の規格が採用されることになった。そこで候補にあがったのが、日本のISDB-T、欧州のDVB、米国のATSCという規格だった。

 この三つのなかで、地元のテレビ局が支持を表明したのが、日本のISDB-Tであり、ブラジル通信省のコスタ大臣もISDB-Tが唯一、ブラジル政府が求める技術水準を満たしている規格だと表明していた。他方で、とりわけATSCに対しては技術的な欠陥がいくつもの機関によって指摘され、採用される可能性は低いと見られていた。

 それでは、日本のISDB-Tにあっさり決まったのか・・・というとそうでもない。ここから、日本、欧州、米国、果ては中国やインドまでも巻き込んだ売り込み合戦が始まったのだ。

 そもそも、上の記事でも指摘されているように、南米における地域大国であるブラジルがどの規格を採用するのかを周辺諸国は見守っており、ブラジルの採用した規格を採用するとの見方が強い。実際、アルゼンチンはブラジルと共同歩調と取る見込みだ。

 そんなわけで、ブラジルは地上デジタル放送市場の動向を決める決定的な市場だと見られており、それだけに売り込み競争も激化することになったわけだ。

 しかも、当初は日本の規格を採用する方向に見えたブラジル政府の内部でも揺れが見られるようになった。おそらく、欧州や米国からの様々な影響力が働いていたのだと思われる。さらに言えば、わざと態度を曖昧にすることで、日本や欧州、米国からより有利な条件を引き出そうとする戦略があったことは間違いないだろう。

 実際、米国、日本、欧州は、技術支援や財政支援、投資の増額など、自分たちの規格の様々な「メリット」を強調しながら交渉に臨んだ。しかも、そうしたブラジル政府の姿勢を見て、中国までもインドと組んでブラジル政府に独自規格の開発を持ちかける始末である。上で引用した記事にも、「日本政府は、日本の電機メーカーや半導体メーカーがブラジルに進出して薄型テレビや半導体を製造する工場を建設するよう働きかける。技術者の育成などでも協力する方針だ」とあるが、これは要するにそのような交渉が行われた結果だといえる。

 ともあれ、そうしたゴタゴタのため、当初は今年の2月に規格が決定されるはずが、3月に延期され、結局は6月末になってようやく決定・・・というのが今回の顛末であろう。

 こういう風に考えると、このエントリの冒頭で「ブラジルに日本勢が攻め込む」と書いたものの、結局のところ、一番ほくほくしているのはブラジル政府かもしれない。

  by seutaro | 2006-06-30 12:16 | メディア

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