2006年 02月 13日 ( 1 )

 

<メディア>放送と通信の融合?

 ライブドアによるニッポン放送買収の試みや、楽天によるTBSとの経営統合の試みにしても、キーワードの1つとなったのが「放送と通信の融合」だった。
 「放送と通信の融合」の定義については前回のエントリで触れておいたが、ブロードバンド化の進展に伴うインターネットでの動画配信の増大によって、通信が放送を飲み込むのではないかとの予測があちこちで語られるようになった。
 そういう前提のもと、放送業界に殴りこみをかけたのがホリエモンだった。彼は「インターネットが放送を殺す」とか何とか言って、そのプロセスを加速させるためにマスコミにM&Aを仕掛けた。
 けれども、冷静に考えて、そのような発言をしながらM&Aを仕掛けてくる相手に「はいそうですか」と大人しく買収される会社というものが存在するだろうか?自分の仕事のあり方を全否定しながらやってくる(しかも、自分の業界についての知識は殆どなさそうな)部外者が資本にものを言わせて買収を仕掛けてきた場合、自分の仕事にわずかなりともプライドを持っている人間なら普通は大きな反感を持つだろう。
 たとえば、最近、日本でも注目されることが多い2001年のAOLによるタイム・ワーナーの買収に際して、タイム・ワーナー側の役員や従業員の間には「マスコミについて何も知らない連中が我々をコントロールしている」との反感が強く存在したという。その結果、M&Aのメリットを生かすようなサービスを殆ど打ち出すことができず、結局のところ社内クーデターに近い形でAOL側の役員の多くは会社を追われることになる。
 さすがにホリエモンも途中で戦略のまずさに気付き、慌てて「win-win」とか言い出したが、時すでに遅しである。楽天にしても、そのあたりにはかなり気を使っていたはずだが、結局のところ経営統合の試みは失敗に終わっている。
 では、IT系の企業が全て放送業界に嫌われているのかといえば、必ずしもそんなことはない。むしろ、本当にうまくやる連中は、マスコミに露出することなく、裏で粛々とビジネスを進めているような気がする。たとえば、「インデックス」は携帯電話向けのコンテンツ制作を行っている会社だが、放送局とも良好な関係を築いてうまく融合ビジネスを進めている。
 結局、「放送と通信の融合」といっても、いくら技術のレベルでは融合可能だとは言っても、最終的に融合させることができるか否かは人間関係のレベルでの話になってくるのであり、そこら辺をうまく処理しないとなかなかうまくいかないのではないだろうか。無論、多くの人はそこら辺もわかっていて、僕がこの間出席した某シンポジウムでは通信系の人びとが放送系の人びとにかなり気を使っている様子を伺うことができた。
 とまあ、いろいろと書いてきたわけだが、上で書いたビジネス戦略上の問題を抜きにしても、僕は「放送と通信の融合」にかなり懐疑的である。無論、インターネット上での動画配信はそれなりには拡大していくだろう。けれども、それが今のテレビに完全に取って代わるかと言えば、おそらくそんなことはないだろうというのが僕の予測である。
 無論、HDDレコーダーの普及によるCMスキップの問題や、地上デジタル化に伴う地方局の財政問題など、放送業界にも問題山積であるし、地方局の1つや2つが近い将来に潰れることもあるかもしれない。けれども、放送コンテンツがすべてインターネット網状で配信され、IPによって数千万人が「紅白歌合戦」を視聴する未来はおそらく来ない。
 その大きな理由の1つは、数百万、数千万単位の人びとを相手に同一のコンテンツを流す場合、インターネットを経由するよりも、放送波を使ったほうがずっと効率的だということだ。そうしたコンテンツをインターネットで流すとなれば、マルチキャストみたいな技術を使ったとしても、トラフィックの増大は避けられないだろうし、サーバーの補強にもかなりのコストが必要となるだろう。しかも、マルチキャストの場合、受信者の属性を判別しずらいため、IP放送のウリである視聴者のニーズにあわせた広告の送信が難しくなる(事実、インターネット上で無料放送をやっているGyaoはマルチキャストを採用しない方針だそうだ)。従って、大多数を相手にした動画を流すのであれば、最初から放送波を使ったほうが手っ取り早いということになる。
 となると、結局、通信上での動画配信ってのはオンデマンド型が中心になる。好きな時に好きな番組や映画をダウンロードできるってやつだ。これはこれで非常に便利だと思う。さらに、NHKなんかが準備しているサーバー型放送では、番組にメタデータが付いているため、今見ているコンテンツに関連したコンテンツをすぐに呼び出すことができる(たとえば、相撲を見ている場合、今まさに対戦しようとしている力士同士の前回の取り組みをすぐに呼び出すことが可能)。
 これらのサービスは便利だし、実際に導入されれば、僕も利用してみたいと思う。けれども、それらの新サービスの競争相手はレンタルビデオ屋である。ちなみに、レンタルビデオの市場規模は500億円程度。放送市場全体ですら3~4兆円程度である。それに対し、通信のサービス市場規模は手元に正確な数字はないのだが、20兆前後だったかと思う。だとすれば、通信事業者が動画配信サービスに乗り出したところで、それ自体によって得られる収益はさほど大きくないと見るのが妥当だろう。
 それでは、なぜ通信事業者が「放送と通信の融合」に関心を持つのか。それは、結局、彼らが今、積極的に推進している高速データ通信の用途がほかにないからだ。WinnyのようなP2Pであれば、光ファイバーも大いに生きるところであるが、すっかりダーティーなイメージがついてしまったP2P技術を前面に打ち出すわけにはいかない。となると、結局、高速回線を必要とする動画配信が加入者を増やすための重要な方策になる。つまり、通信事業者は動画配信そのもので儲けるというよりも、あくまで加入者を増やすための一手段として動画配信を捉えているのだと思う(そして、そのことが通信事業者と放送事業者との溝を生んでいるような気がするが、この点については後述)。
 しかし、正直、そうしたオンデマンド型の番組配信に対するニーズというのはそれほどまでに大きいのだろうか。通信系のブログなんかを見ていると、ポッドキャスティングがどうだのこうだのと言って、今にもそうしたサービスが既存のテレビのビジネスモデルを崩壊させてしまいそうな勢いのことがしばしば書かれている。けれども、そうした人たちは、たいていは「情報強者」なので、情報の取捨選択に非常にシビアな人たちである。そうした人たちからすれば、万人受けする内容をだらだらと流しているテレビ番組の視聴など時間の無駄以外の何物でもなく、もっと先鋭的なコンテンツこそが必要なのだということになる。
 けれども、全体として見た場合、そうした人びとの割合は決して高くない。むしろ、多くの人びとにとってテレビとは「だらだら」見るためのメディアであり、わざわざデータベースから自分の見たい番組を検索してくるようなことを毎回するという作業は面倒この上ないのではないだろうか。言い換えれば、「自分がいま何をみたいのか」というニーズを明確に持っている場合のほうが稀であるように思われる。むしろ、チャンネルを適当にザッピングして、面白そうなものを見るというのがテレビ視聴の王道であり、これこそがテレビを「史上最強のメディア」たらしめているのである。
 というわけで、どうもオンデマンド型のテレビ視聴に対するニーズの存在は否定しないけれども、全体として見ればそうしたニーズはそれほど大きいわけではなく、既存のテレビは今後もその存在感をいかんなく発揮していくというのが僕の見通しである。
 いい加減長くなってきたので、ここらで終わるが、次回は今回書けなかったポイントについて述べることにしよう。
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  by seutaro | 2006-02-13 01:51 | メディア

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